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王国ゲェム【ヤンデレビュー】

王国ゲェム(1)<王国ゲェム> (電撃コミックスNEXT)

王国ゲェム(1)<王国ゲェム> (電撃コミックスNEXT)




※1巻のネタバレが含まれています。



この本を買った理由は他でもありません。『危ノーマル系女子』に引き続き、表紙の女の子がヤンデレにしか見えなかったからです。
本屋で見かけた表紙に惹かれ、見本誌を立ち読みして、表紙の女の子がヤンデレであることを確信した後に買いました。



表紙の女の子=槙原紗香ちゃんは、成績優秀、容姿端麗な高嶺の花系ガールです。前回の『危ノーマル系女子』に引き続き、ヤンデレのテンプレを地でいくような素晴らしきかな女の子。



さて。
『王国ゲェム』というタイトルからも察しがつくように、主人公達が謎のゲームに参加させられるお話です。
高校生7人が巻き込まれたのは、支配と服従のデスゲーム
という帯のコピーからもわかるように、王様ゲームの命賭けたバージョンみたいなものですね。

あらすじ。主人公と紗香ちゃんを含む7人のクラスメイトが、ある日突然、「王国ゲーム」というゲームに巻き込まれてしまいます。ルールはこんな感じ。

晩0時に「王様(×1)」「貴族(×2)」「平民(×4)」が決定され、王様は貴族と平民に、貴族は平民に命令をすることができる(しなくてもいい)。命令された側は、命令する側の視界の範囲内にいる限り、不思議な力によって強制的に従わされる。
王様・貴族・平民が協力して一つの王国を為し、「領土」が一定以上になった王国には「神の手」という奇跡が与えられる。

ではこの「領土」「神の手」って何かというと……まだよくわかりません。続きに期待ですね。
とにかく、みんなで協力して自分の王国の領土を増やして奇跡を手に入れましょうって趣旨のゲームみたいです。王国は複数あって、2巻では他の王国とのバトルも展開されるらしいです。



とまあこんな感じなのですが、小難しいことは置いといて私が強調したいのは、

王様は貴族と平民に、貴族は平民に命令をすることができる。

という点、ただ一つです。


さてここで問題。
絶対服従の命令×ヤンデレ=???


……なんとなく展開を察していただけたでしょうか?

そうです。ゲーム開始二日目に女王となった紗香ちゃんが主人公に
「私のこと愛してるって言って!」
と命令するのです!!!



「私のこと愛してるって言って!」
と命令するのです!!!!!



絶対服従の命令×ヤンデレ。最っ高に萌えるじゃないですか。もうこの二つを組み合わせて物語を作ったという点だけで満点百点花丸パーフェクトを差し上げたいぐらいです。

だがしかし!!!紗香ちゃんの恋心は止まらないどころか危ない方向に加速します。

1.主人公に「私を愛して」って命令しちゃう。(でも人の心を動かす命令はできないルールだったようなのでがっかり)
2.なら体だけでもってことで主人公に「私を犯して(ハート)」的な命令をしちゃう
3.ゲームの参加者の一人である女の子がやってきても御構い無しにコトを進めようとしちゃう
4.主人公に「人にされたくないことはするな!」と言われ、(確かに他の参加者の男子に命令されて犯されるのも、主人公くんが他の女子にそういうコトさせられるのも嫌だな〜)ってことで、
私が女王になる前にみーんな殺しちゃえばいいんだ☆これで私と主人公くんだけの王国♪るんるん♪
的な思考に至っちゃう



ちょっとびっくりな展開ですね。メンヘラではなくヤンデレクラスタを自称する私としては首を傾げてしまいます。

 「みんなを殺して私と主人公くんだけの王国を作るの!」という思考は堪らなくドストライクで大好きなのですが、大事なのはその台詞単体ではなく、そこに至るまでのシチュエーションだと思うのです。
そのシチュエーションが、ヤンデレとしてはやや不十分だと感じました。
……ヤンデレとしては。

(別にこの子がヤンデレキャラとして動かされていないのであればこの項目どころか記事ごと無駄になっちゃう気がしますので、今回は紗香ちゃんがヤンデレという前提で話を進めます)


さて。彼女の思考だと、
・主人公くんが他の女とセックスするぐらいならそいつらを殺す
私が他の男とセックスするぐらいならそいつらを殺す

となりますよね。前者はわかりますが、後者は「ん?」って感じです。

主人公が言っている通り、人にされて嫌なことは自分もするべきではありません。人を呪わば穴二つ。人に嫌なことをするときは、自分も同じことをされる覚悟を持ってするべきです。でなければただの自己中です。

確かにヤンデレって自己中で独りよがりな面もありますが、それらの面は意中の人への愛という形で発露されるものです。

「好意に気付いてほしいから毎日100回電話しちゃう」
「他の女といるんじゃないかって心配だから毎日後をつけちゃう」
「好きな人の全てを知りたいから彼の自室に監視カメラを仕掛けて四六時中監視しちゃう」

行動だけ見ると本当にはた迷惑な行為なのですが、それらは全て愛する彼を想うが故なのです。だからこそヤンデレはただの自己中ではなく、可愛い萌え要素となり得るのです。


ということで、
「主人公くんが他の女とセックスするのが嫌だから、そうなる前に女を皆殺しにする」
っていうのはまだわかります。意中の人が他の女に寝取られるというのはヤンデレでなくても耐え難いことでしょう。ですので、そうなる前に他の女を殺す、という論理は理解できます。

ですが、
「私が他の男とセックスするのが嫌だから、そうなる前に男を皆殺しにする」
っていうのはわかりません。これは意中の人関係なく自分のための行動ですよね。それも、夜道でいきなり複数人の男に囲まれて今にも服を脱がされそうになったので持っていたナイフで皆殺しにした、というような正当防衛ではありません。
むしろ「私は主人公くんをレイプするけど、他の人間が私をレイプすることは許さない。だから男は全員殺す」という、かなり無茶な主張をしているわけです。

しかもまだ犯されていないどころか強姦未遂すらなく、彼らにその気があるかもわからない段階でこれはちょっと、他の男子が可哀想です。女子も然り。


こういう点を鑑みると、ヤンデレ的な萌えからは外れてるかなーって思いました。典型的なヤンデレを目指しているであろうキャラなだけに、ちょっと残念です。
あとこれはかなり個人的な意見ですが、ヤンデレなら「私の体が汚される危険があるので殺す」ではなく「体は汚れてしまったけれど、心はいつも主人公くんのものだよ(ハート)」ぐらい言ってほしいものです。
「みんなを殺して私と主人公くんだけの王国を作るの!」なんて素敵な台詞を言っちゃう系女子なのですから、もっと正統派なヤンデレでいてほしかったですね。



更に、この作品で残念な点がもう一つあります。
これはかなり大きなネタバレになるので、これから読もうと思っている方は注意してください。




















いいですか?
心の準備は大丈夫ですか?















なんで紗香ちゃん死んじゃうの(´;ω;`)?



王国ゲームにはもうひとつのルールがあり、平民達はそれを使って、女王となった紗香ちゃんを王の座から追放しました。
その結果、革命によって王が処刑されるように、紗香ちゃんは帰らぬ人となってしまったのです。


ストーリーとしては全く無理がなく、ご都合主義だとも感じませんでした。
しかし、しかしです。
この展開はちょっと、いや大分まずいんじゃないかって思いました。
唐突すぎて、これって本当に初めから作者がやりたかった展開なのかな?とすら疑ってしまいます。


というのも、紗香ちゃんは表紙を飾っています。表紙ですよ?普通マンガの1巻の表紙にいる女の子って、ヒロインじゃないですか。ヒロイン。そのマンガの看板娘。もちろん例外もありますが、少なくとも読者は表紙の女の子がヒロインであることを期待します。
物語におけるヒロインの一番の役割ってなんだと思いますか?ほとんどの場合、主人公と恋愛関係を育むことです。マンガやラノベだと特にこの傾向は強いです。

表紙の女の子がヤンデレっぽいってだけで「あ、ヤンデレなヒロインだ!これはきっとヤンデレなヒロインが平凡な主人公と愛を育むお話だな!買った!」となる読者が事実ここにいるぐらいです。


ヒロインだと期待された女の子が、1巻で死ぬ。
これがどういった意味を持つのか、関係者の方々には深く考えてほしかったなと思います。


熟考された上での判断だというのならきっと何かしらの意味があるのでしょう。しかしどうも、私にはそうは思えません。
初めはメインヒロインになる予定だった紗香ちゃんが、途中で降ろされたという印象を受けました。以下に理由を述べます。

第一に、前述した通り、紗香ちゃんが表紙を飾っています。1巻が全て描き終わる前に表紙イラストだけは出来ていた……とも考えられます。

次に、1話とそれ以外での紗香ちゃんの扱いが変わっています。1話の冒頭では紗香ちゃんが物語全体の導入を担当しています。また主人公が紗香ちゃんに言い寄られるとき、頬を赤くするなど、彼は満更でもない態度をとっています(私にはそう見えました)。
しかし1話以外では、むしろ紗香ちゃんの好意が迷惑なのだとする場面が増えてきます。紗香ちゃんが死んでしまったあとに、主人公が「実は彼女のことは苦手だった」と皆に告白するシーンもありました。

これらは、当初は紗香ちゃんが物語のヒロインになる予定だったけれど途中で変更された、という可能性があることを示唆しています。


この仮説が正しいとしたら、何故紗香ちゃんはヒロインから降ろされたのでしょうか。
理由は恐らく、ヤンデレという素材の扱いにくさにあるかと思います。

School Daysヤンデレな妹に愛されすぎて眠れないCD、ヤンデレ系のスマホアプリなどの展開を見ればわかるように、ヤンデレをメインに据えた物語は、大抵バッドエンドで終わります。
そうでなくとも、ヤンデレやそのお相手にとってはハッピーエンドでも、他人から見たら「それって本当に幸せなの?」と言いたくなるような展開が多いものです。「二人だけの世界で永遠に生きる」とか。「心中してあの世で永遠に一緒」とか。所謂メリーバッドエンドですね。

バッドエンドというのは扱いが難しくて、上手く決まれば読者の心に深く残る傑作となるのですが(ロミオとジュリエット舞姫など)失敗したら後味が悪いだけで終わります。
ヤンデレをヒロインにするだけで普通のハッピーエンドを迎えることが難しくなるという都合上、そうならなかった場合、作者は上手いバッドエンドを描くことを求められます
これが、ヤンデレが扱いにくい理由の一つ目です。

二つ目は、ストーリーのコントロールが難しくなることです。ヤンデレをメインヒロインにした場合、ストーリー展開がヤンデレの異常性に大きく引っ張られます

例を挙げます。本作がデスゲームを主軸にした作品なので、同じく極限状態の「無人島」に7人で流された話だとします。
もしメインヒロインが心優しい普通の女の子だとしたら、猛獣に襲われそうになるヒロインを主人公が助けたり、仲間が分裂しそうになるのをヒロインが仲裁したり、6人までしか乗れないイカダで主人公とヒロインのどちらかが島に残る選択をしたり……といったイベントが考えられます。王道かつドラマチックな展開を考えるのが容易ですね。
しかし、メインヒロインがヤンデレだった場合。ヤンデレというのは基本的に、自分の信念に従って自主的に行動します。猛獣に襲われそうになった主人公を逆に助けることもあれば、仲間が分裂しそうになっても主人公に被害がない限り無関心を貫くでしょう。最後に主人公かヒロインが島に残らなければならないとなれば、迷うことなく二人で心中するはずです。
迷いがないということは、葛藤がないということに繋がります。葛藤がないということは、物語の山を作りにくいということに繋がります。

よって、ドラマチックな展開を作りたいのであれば、主人公達が置かれた状況からイベントを考えるというのではなく、ヤンデレの性質に基づいてイベントを考える方が楽です。お腹が空いた主人公のためにヤンデレが仲間の一人を殺そうとするなど。

これが、ストーリーがヤンデレに引っ張られるという状況です。
言い換えると、ストーリーが常にヤンデレを中心に動くことになるのです。しかし同じ人間が同じ状況下で起こす行動のパターンは限られてきます。なので、物語が続くにつれて似たようなイベントが何度も起こるという自体になりやすい。だからヤンデレは扱いにくいのです。


メインヒロインをヤンデレにしたはいいものの、良いエンドが思いつかない。
それどころか、今後のストーリーが思いつかない。単調になりそうだ。
これからもずっとこのヤンデレを中心にした話を描いていくのは厳しそうだ。しかしヤンデレが主人公に執着するあまり仲間を皆殺しにしようとする、という展開は面白そう。ならばどうするべきか。
そうだ、殺してしまえば……



このような考えがあったのではないかと推測します。

我ながら引くほど深読みしてしまいましたが、直感的に「ヤンデレメインで描くのがめんどくさくなったのかな」と思ってしまいました。
(過去に何度もヤンデレをヒロインにした物語を書こうとして構想時点で挫折している身なので……今の私には童話の二次創作が精一杯です)



殺すという形で紗香ちゃんをメインヒロインから降ろしたのは、今後の展開を考えれば正解だったのかもしれません。
ですが、表紙と冒頭でヤンデレヒロインを期待していた読者にとっては、極端に言えば裏切りに近いと感じました。

どこかで聞いた言葉です。
読者の予想は裏切っても、期待は裏切るな
一度ヤンデレヒロインでいこうと決めたのであれば、最終巻までそれを貫き通してほしかったというのが本音です。


紗香ちゃんがいなくなってしまった今、2巻を買うかはわかりません。
ですが今後、彼女が霊的な(神的な)存在になって主人公達の前に現れるという展開があるかもしれないので、チェックはしておきたいところです。