ハッピーシュガーライフ(1)【レビュー】

ハッピーシュガーライフ(1) (ガンガンコミックスJOKER)
- 作者: 鍵空とみやき
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2015/10/22
- メディア: コミック
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全体的な評価としては高い部類に入る作品でした。
質の悪いラノベや流行りそうな要素を詰め込んだだけの漫画のように表紙だけ良くて中身がペラペラということもなく、きちんとストーリーのある漫画だと言えます。
生粋のヤンデレクラスタだけでなく、ヤンデレに耐性のある幅広い層にお勧めできる良作です。これを機にヤンデレクラスタが増えたらいいなぁ。
さて、いつものように目的もなく本屋をブラブラしていたある日。平積みになっている本=売れ筋の作品ということで平積みの漫画の表紙を物色していると、未来日記の我妻由乃似の狂気的な美少女がこちらを見ているではありませんか。
すぐさま手に取りあらすじを確認。裏表紙の内容とは少し違いますが、大体はこんな感じでした。
松坂さとうには、好きな人がいます。
その人と触れ合うと、とても甘い気持ちになるのです。
きっとこれが「愛」なのね。彼女はそう思いました。
この想いを守るためなら、どんなことも許される。
騙しても犯しても奪っても殺してもいいと思うの。
『カミヨメ』『TARI TARI』の鍵空とみやきが描く、戦慄の純愛サイコホラー。
(ガンガンジョーカー公式サイトより引用。http://www.jp.square-enix.com/magazine/joker/series/happysugarlife/)
戦慄の純愛サイコホラー……!?ヤンデレクラスタにとって至高の響き。即購入を決めました。
許されない恋、心から愛する人を監禁する。そのために邪魔な人間を処理。自らの手はいくらでも汚す。
こういう話が大好きなもので、『愛を守るためならどんなことでも許される』というフレーズに心惹かれました。帯で『賭ケグルイ』の作者である河本ほむら氏・尚村透氏が推薦していたのも大きかったですね。
さて、第1巻の中身はこんな感じでした。
主人公の松坂さとうは、成績優秀で性格も優しいと評判の美少女です。高校生のさとうは、最近家に帰るのが楽しみで仕方ありません。何故なら、神戸しおというこれまた可愛らしいロリ……少女がお出迎えしてくれるからです。
実はしおちゃんは、さとうが誘拐・軟禁している子供なのでした。さとうは愛してやまない彼女と二人暮らし中。純粋無垢なしおちゃんは、優しくて何でもできるさとうに懐いています。
ちなみに今二人が暮らしているお家はある人間をさとうが殺して手に入れたものなのですが、そんなことは些末な事情。
さとうは今の幸せな甘い生活を壊さないために、バイトや証拠隠滅に精を出すのでした。
良い点①:タイトルやモノローグのセンスが良い
『ハッピーシュガーライフ』というタイトルは、さとうとしおちゃんの幸せで甘々な生活を表しています。ですがその実態は、独善的な理由で幼女を誘拐し、罪無き人を殺すことで手に入れた歪んだ幸せです。それでもさとうは、自らの胸に生まれた甘い想いこそ至高の幸せだと信じ、今の生活を守るためなら文字通り「どんなことでも」しようと決意しています。第1巻でも、主に2人ほどの大人を相手に上手く立ち回り、ハッピーシュガーライフを守ることに成功しています。
甘いだけではない、歪んだ幸せーーそんな意味が込められているように感じます。世間で言う幸せとは程遠いヤンデレ作品にあえてのこのタイトル。秀逸です。
また先ほど引用したあらすじのような、ポエム的なモノローグが随所に入ります。可愛らしい絵柄も相まって、まるで絵本を読んでいるかのような気分になります。ストーリーより雰囲気で漫画を読むタイプの人にも気に入ってもらえる要素があると言えます。
良い点②:さとうがテンプレ可愛い
ヤンデレ作品において大抵のヤンデレは優等生かつ美少女なので、テンプレートを遵守している点は高評価です。
また愛する人と一緒に暮らすためなら犯罪も厭わないその姿勢が非常にヤンデレらしくて読者(ヤンデレクラスタ)の心を掴みます。
あと元ビッt……誰とでも寝るような子だったという設定が個人的にツボです
良い点③:しおちゃんも非テンプレながら可愛い
ヤンデレのお相手は冴えない平凡な男子と相場が決まっています。しかしさとうはそんじょそこらのヤンデレとは違い、きちんと見る目があるようですね。純粋無垢で聞き分けのいい幼女を愛しています。
この点において、ヤンデレに耐性のある百合好きやロリコンの皆様にも推せる作品ですね。もちろん「推しのヤンデレちゃんは可愛いのになんでそんな男がいいんだ!!私の方が幸せにできるのに!!」と毎度血の涙を流している貴方にもお勧めです。
良い点④:美麗な絵柄
表紙買いしたものの中の絵が微妙ということもなく、一つ一つのコマが丁寧に可愛らしく描かれている点が良かったです。何よりキャラクターの病んだ表情が堪りませんね。ゾクゾクします。
以上の文章からお分かりいただけるかと思いますが、普通に良作です。1巻の時点では劇的な展開があるわけではありませんが、キャラクターも可愛いしストーリーもちゃんとしています。さとうの心情にも共感できる部分がいくつかあり、非倫理的な行動をしている主人公も心ある人間としてきちんと描かれています。
ですが、物足りない。……どうにも物足りないんです!!
もっとさとうは病んでていいし、他のキャラクターも魅力的であるべきだと思うんです!!
……展開に物足りなさを感じるのは、この漫画が少年誌に掲載されているということが大きそうです。一般的に少女の方が少年よりも鬱展開に耐性があると言われており、実際に少女漫画ってえげつない展開のものが多いです。少年誌の王者と言える週刊少年ジャンプの理念が『友情・努力・勝利』であるのに対し、少女漫画はエログロイジメ泥沼の三角関係と何でもあり。下ネタだって下手したら少年漫画のそれよりひどいです。
以上からもわかるように、男性……特に少年は、ただただ胸が苦しくなり鬱々しい気分になるような暗いストーリーは避ける傾向にあります。よってハッピーシュガーライフも、暗い題材を扱っていながら気分はそれほど落ち込まないようなものにする必要があるのだと思います。
特にガンガンは、血なまぐさいバトルシーンや若干のお色気シーンはあるものの、大抵の作品が非常に健全なものです。それが、私含めヤンデレクラスタには物足りないのかもしれません。
少なくともヤンデレを描くための作品ではないと感じました。
どちらかというと、ちょっと狂った可愛い女の子&異常な両想いシチュエーションを雰囲気で手軽に楽しむ作品って感じです。ヤンデロイドタグ付きのボカロ曲で言えば『ロッテンガールグロテスクロマンス』というよりは『狐ノ嫁入リ』寄りの作品ですね。前者はヤンデレこそ至高!!な視聴者に刺さるのに対し、後者は鏡音リンクラスタや和風曲好きにも広く愛される楽曲です。
ロッテンガールグロテスクロマンス
狐ノ嫁入リ
クズの本懐(1)【レビュー】
※辛口コメントです。この作品が好きな方はご注意ください。
※ヤンデレ作品ではありません。
今回紹介する『クズの本懐』。ネットの広告やアニメ化などでよく耳にするタイトルということで、少し気になっていました。
ネット版1話を立ち読みして良さげだったのと、本屋であらすじを見て好みだったので購入。内容はこんな感じです。
安楽岡花火と粟屋麦は、学校の誰もが羨む評判の高校生カップル。 一緒に下校して、テストの点数を教え合い、他愛のない会話をし、物陰に隠れてキスをする。そんな甘酸っぱいカップルの日常を過ごす二人には、誰にも言えない秘密があった――。
恋ってそんなに美しいものですか…? 新鋭が描く、エロティック純愛ストーリー。
(ビッグガンガン公式サイトより引用。http://www.jp.square-enix.com/magazine/biggangan/introduction/kuzu/)←このサイトで立ち読み1話が無料で読めます。
ふむふむ。切ない恋愛ものなのかな?と思いきや、カップルの『秘密』の内容がぶっ飛んでます。第1話で判明するので言っちゃいますが、花火(♀)も麦(♂)も互いのことなんか毛ほども好きじゃありません。周囲から羨まれる美男美女カップルを演じているだけ。
では何故付き合っているのか。それは、それぞれ別に片想いしている人がいて、相手をその人に重ねて手を繋いだりキスしたりするためです。本編からの引用ですが『互いが互いのかけがえのある恋人』なのですね。
ちなみに花火は近所に住んでいる国語教師(『お兄ちゃん』)に、麦は元家庭教師である音楽教師に片想いしている上、国語教師は音楽教師のことが好きです。彼らの恋が叶う見込みはほとんどありません。
……どうですか、この設定。
めちゃくちゃいいと思いませんか!?切なすぎる!
ヒロインである花火のモノローグに、
『報われない恋 切ない恋 片想い それってそんなに美しい物ですか 私はそうは思わない』
『人を好きな気持ちなんて もっと切実でぐちゃぐちゃで 諦めようとしても諦めきれない そういうものだよ』
というものがあります。
多くの恋愛漫画がそうであるように、物語における片想いは美しいものとして描かれることがほとんどです。しかし現実の片想いは大抵苦しい。相手の挙動に一喜一憂し、期待しては裏切られての繰り返しです。
片想い中の友人×3(演劇部の衣装担当)も『あたしはゆうれい』のサビを聴きながら「(私なんて)馬鹿です〜!!」と涙ながらにミシンを動かしておりました。
あたしはゆうれい あなたはしらない
涙の理由も その色さえも
それでもきっと 変わらずにずっと
あなたが好きよ 馬鹿みたいね
(『あたしはゆうれい』By米津玄師 http://sp.uta-net.com/search/kashi.php?TID=195154)
叶わない想いを募らせている多くの方は、花火のモノローグに共感できるのではないでしょうか。そして、代わりの人間でもいいから寂しさを満たしたいという思いも。
花火と麦は容姿端麗・成績優秀で学校でも人気者ですが、彼らはけして幸せな人間ではないのです。こうした設定が、物語によりリアリティを与えています。
では、お待ちかねの本編といきましょう。これだけ素晴らしい設定が散りばめられているのですから、多彩な展開が期待できるはず。
友人に花火達の関係がバレてしまうのかな?それが片想いの相手にも知られて気まずくなってしまうのかも。
それとも花火が、ふとした瞬間に麦では先生の代わりにはならないと実感して、苦悩するのかな?付き合い続けても別れても悲しい未来しか見えません。
もしくは途中で花火を好きになった麦に告白されて罪悪感を抱くのかな?いやいや、むしろ花火が麦に恋することになるのかもしれないですね。
特殊な設定の登場人物が主役になるタイプの物語では、その設定ならではの心情やストーリー展開が期待できますよね。実際私もそうでした。好きな人の代わりに好きでもない人間と付き合うということがどんなことなのか……切ないのか、心地よいのか、虚しいのか。そんなことを考えながら読み進めていました。
さて、肝心のストーリーはというと……何も起きません。
本当に、何も、起きないのです。
驚くほど事態が進展しません。少なくとも1巻時点では。
強いていうなら、花火のことを恋愛的な意味で好きな友人(♀)と、麦のことを好きな彼の幼なじみ(♀)が登場しただけです。あとは、なんで花火と麦がこの関係を始めたかっていう経緯が回想シーンと花火のモノローグを交えて紹介されて終わります。
……え、もう終わり?『互いが互いのかけがえのある恋人ですよ』っていうあらすじを超えるものがあったっけ?
これが正直な感想です。
読後に残るものが何一つありませんでした。
これなら設定だけ読んで自分で適当に展開を妄想する方がマシだとすら思いました。
帯以上のものはありません。本当に。
①面白い設定に対してストーリーが薄い。
これが普通のちょっと切ない恋愛漫画だったらまだ良かったのでしょうが、いかんせん設定が特殊かつ個人的に好みだったので、ストーリーへの期待値が高かったのがガッカリした原因の一つだと思います。
モノローグで花火の心情が描かれていることは描かれているのですが、描写不足感も否めません。回想シーンの花火は気まぐれとはいえ友人の麦にふざけて抱きついて寂しいと呟くし麦も花火を押し倒して「『お兄ちゃん』だと思ってみれば?」って自ら身代わりになることを申し出るし(花火曰く、多分その時互いが同じことを考えていた、だそうです)、花火は麦のことが好きな幼なじみ(♀)の胸ぐらを掴んで「人のモノにあんまり無許可でひっつかないでね」って言い放つし(花火曰く、独占欲ではなく『所有欲』だそうです)。
結局こいつらは何がしたいの?と何度も思いました。互いのことは好きでも何でもないんじゃなかったのかと。もう互いのこと好きになっちゃえば解決じゃないかとさえ思いました。片想いの相手に対する気持ちがとても本気とは思えません。
②キャラクターに共感できない。
花火の性格が悪い意味でクズで、麦のキャラは薄くて空気。キャラクターの心情が命となってくる恋愛ものにおいて、主人公達に愛着を持てない・共感できないというのはかなり痛いと思います。
花火については、男子からの告白の返事を一週間も待たせておいて(なんで私すぐに振らなかったんだろう、面倒くさいなぁ)と思いながら「ごめんなさい」と笑顔で一蹴。それだけならまだいいのですが、「一週間も待ったのに……期待するじゃん……」と泣きそうな相手を前にして、
「興味のない人から向けられる好意ほど気持ちの悪いものってないでしょう?」
と無表情で言い放つ。いや思っても言う必要ある?
言葉は悪いですが、冷たくてクズな自分に酔っているとしか思えませんでした。本気なのであれば、彼女に人のしての良心はないのだと思います。
普通の人間であればそもそも告白されて待たせていることを忘れるなんて有り得ませんし、忘れてたとしても一週間も待たせたことへの申し訳なさだってあるはずです。なのにまるで自分が正しいとでも言うかのような逆ギレ発言。しかも悪役ではなく、読者に共感されるべき主人公の発言です。
更に、花火のことが好きな男子がその様子を見ていたのですが、彼の友人に「心優しいなぁ安楽岡さん……未練の残らないようあえてハッキリと……さすが俺のミューズ……♡」「フラれるのは嫌だけど俺もあの蔑んだ目で見下されたい……」と恍惚の表情で言っています。さすがにこれには友人からのツッコミが入りましたが、作中で誰も花火の行為を明確に悪であると指摘していない、むしろ正当であるかのように描写されている点に違和感しかないです。
倫理的に悪であることを、物語の中で否定されていない。主人公マンセーとでも言うべき展開に呆れました。
タイトルの「クズ」というのはあくまで、悪いことだとわかっているけど割り切れない身代わり恋愛行為についての言及だからこそ「クズだなぁ」と言いながらも愛せるわけであって、本物のクズなんて誰も好きになりません。こんな人間の恋なんて叶おうが叶うまいがどーでもいいし、むしろ叶うわけないよねって思います。
そもそも他人の恋愛感情を否定してコケにしておいて「お兄ちゃんへのけして叶わない恋……辛い……」なんて言ってても同情できません。そりゃ『お兄ちゃん』だってあなたみたいな性格悪い人選ばないよね、賢明な判断だよとしか。
そして読んでいる限り、モテモテの花火は告白されても毎回バッサリ振っているようなのですが、こんな振り方をしている人間が未だモテモテでかつ誰もが羨むカップルの女側というのがどう考えても納得できません。美人だからこそすぐに「顔だけの女、性格は最悪。麦は見る目がない」なんて噂が立ってもおかしくなさそうなのですが……この辺りの設定に無理があるように感じます。
花火を好きな友人(♀)や麦を好きで花火をライバル視する幼なじみ(♀)の存在も、花火がいかに価値ある少女かということを表すための道具にしか見えません。彼女達に人間としての魅力は特に感じませんでした。麦は優柔不断でよくわからない男という印象しかないです。
2巻以降は読んでいないので展開はわかりませんが、恐らく買わないと思います。
もっと花火が良い子で麦もかっこよくて彼らの心情に共感できる場面があって、かつ花火の異常な持ち上げがなければ、続きを買う気になっていたかもしれません。
何度でも言いますが、あらすじの内容はめちゃくちゃ好みでした。ですが、それ以上のものはありません。
支配されたい。自称S以外に。
こういうシチュエーションよくないですか!? 共感してくれる方はいらっしゃいませんか!?
そんな気持ちで書いてみました。
本当にSなら有無を言わせず相手に従わせてみせろ。
- プロの求める見返りが小さいこと
- 前もって「見返りを貰えなければ要求は無視する」とはっきり宣言しておくこと
- 一度目の要求無視のときは、相手にとっての被害が少なくなるようにすること
本当にSなら有無を言わせず相手に従わせてみせろ。
自分のことを理解してほしい病。
自分は場の空気を悪くしてはいけないんだ、という強迫観念のようなものがあるのだと思います。
だから、シリアスな話をしているときでもその空気に耐えきれず、自らおどけて誤魔化してしまいます。相手が反応に困らないような立ち振る舞いを意識してしまうんです。
対面人狼会でラストゲームだけ悲しい結果になるレポ

王国ゲェム【ヤンデレビュー】

- 作者: 天瀬晴之
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/12/28
- メディア: Kindle版
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人魚姫がヤンデレだったら【後編】
お城にやって来た人魚姫のことを、王子様は手厚く歓迎しました。彼は足の不自由な人魚姫を、妹のように可愛がりました。
というのも、もうすぐお城でパーティーがあり、その余興の歌を人魚姫に任せたかったのです。彼女のように美しい容姿と声を兼ね備えている女性を、王子様は見たことがありませんでした。
いつものように歌の練習をしていた人魚姫は、何気なく王子様に問いかけました。
「そういえば、いったい何をお祝いするパーティーなのですか?」
「ああ、君にはまだ言っていなかったかな。結婚を祝うパーティーだよ」
そう言って穏やかに微笑む王子様に、人魚姫はおそるおそる尋ねました。誰が誰と結婚するのか、と。
王子様はさらりと答えました。
「僕と、僕を助けてくれた女の人がだよ」
*
いよいよ結婚式当日を迎えました。以前のように船の上で催された結婚記念のパーティーは、人魚姫の余興の成果もあり、おおいに盛り上がりました。しかし、歌を終えた人魚姫の表情は暗いものでした。